「セブルス、やっと見つけた!」

不意に声を掛けられ、我輩は身構えるように振り返った。
本能と呼ぶべきだろうか、声の主は紛れもなく、あの女だった。



彼女は嬉しそうに我輩の手を取り、ブンブンと上下に振り回した。
ハッキリ言って、このまま逃げ去りたかった。
学生時代、この女にはどれだけ迷惑をかけられただろうか。
走馬灯のように一瞬にして、過去が蘇った。

『セブルス愛してるわ』
『私のセブルス』

幾度となくそのような台詞を聞かされてきた。
女はあの頃と変わらない。

女の名前は、

その容姿から「スリザリンの薔薇」と例えられていたが、
我輩に言わせれば「スリザリンの変態」でしかない。
名門家の令嬢でありながら、中身は令嬢の
欠片もない、ただのアホだ。

「セブルスってば卒業後、どこに行っちゃったのかわからなくって。
 私ずーっと探してたのよ?そしたらこんなところにいるなんてね」

は再会を手放しで喜んでいた。
我輩としてみれば、「とうとう見つかってしまった」という気持ちの方が大きい 。
しかもこの女は本当に「ずーっと探していた」に違いない。
これまで見つからなかったのが嘘のようでもある。

「セブルス?さっきから黙ってるけど・・・どうかした?」
「どうもこうもない。貴様こそここで何をしているんだ」

そう、ここはホグワーツだ。
魔法薬学教授としてここに勤めて早5年ほど。

・・・そんなことはどうだっていい。
問題は、何故、がここにいるか、だ。

「そんなの決まってるじゃない」

は真顔で言った。
“セブルスを迎えに来た”と。

聞き間違いかと思ったので、我輩はもう一度同じことを尋ねた。

「セブルスを迎えに来たの」

意味がわからない。
迎えとはなんだ?なぜ、我輩が迎えられなければならない。

「でも、今のセブルスは先生なんでしょう?」

そうだ。
だから迎えになど来られたところで困るだけだ。

「だから」

は満面の笑みを湛えて言った。

「私も教職に就くことになりました!」

ビシッと言い放ったに、我輩はぼんやりと
その姿を直視することくらいしかできなかった。

「ダンブルドアの計らいでね、DADAの先生が必要だってことで」
「粋な計らいよねぇ〜。私にセブルスの居所を教えてくれるどころか、
 一緒にいられるように、教職にまで就かせてくれるなんて」

ペラペラとよく喋るところも変わっていない。
いや、そんなことより、ダンブルドアは何を考えているんだ。

そもそもの令嬢であるのなら、卒業後は決められた
婚約者とでも結婚するのが普通ではないのか?

我輩の脳裏を読んだのか、はまた真顔になって言った。

「私の結婚相手はセブルスだけよ?」

ああ、悪夢だ。
これから何年、この女と一緒にいなければならないのだろうか。
学生時代が終わりを告げた時のあの開放感はなんだったのだろうか。

神などというものは信じないが、
こればかりはそれを信じ、そして恨む。

「よろしくね、セブルス」

我輩の手を握って(それもかなり強く)から、頬にキスをしたこの女の頭を
手に持っていた羊皮紙の束でスパンと殴りたくなった衝動を抑え、また
キリキリと痛み出した胃の辺りを抑えるようにして、我輩は思った。

まずは胃薬の調合だ・・・と。