窓からちょうど暖かい日差しが注ぎ、今にもまどろんでしまいそうな雰囲気があった。
受けてる講義の内容は確かに魔法に関するものであったが、先生の口から出てくる話は呪文のように聞こえ、分かるようで分からなかった。かったるそうに受けてる生徒達の中、はほおづえついて聞いていた。
――――今思えば、ほおづえついて、いつも講義を受けてるような気がする。
別にこうしなければ気が済まないという訳ではないし、特別な理由もない。講義の内容がつまらなくとも、面白くても、自然とほおづえつく自分がいる。多分なんだけど、きっと………癖が移っちゃったんだと思う。
はちらりと横斜め上の席を見る。
その席には、そこそこ長い黒髪を無造作に一つに束ねた少年が、と同じようにほおづえついていた。瞼が重くなっているのか、目がうつろになっていた。それを見たは吹き出してしまいそうになったが、何とかして堪える。
――――その人は、シリウス=ブラック。
会うたびに挨拶を交わしてはちょっと話せる程度で、そこまで親しくはない。あえて言うなら、顔見知り以上友達未満だろう…なんて複雑な関係だろうか。
「、この問題は解けますか?」
指名されたことに驚いたが、講義中だったことを思いだし、我に帰る。「えーっと……」そんなに難しい問題ではなかったのが幸いした。覚えてる範囲で答えたら、自分の寮に点数を入れてくれた。大袈裟だと思いつつも、役立てたと嬉しくも思えた。ふと視線をシリウスの方に向けると目があった。すると、彼はピースサインをしながら笑ってくれた。自分もこっそりとピースサインをしようと思ったが、シリウスは前を向いてしまったため、諦めた。
――――ほおづえしている理由に、何故彼を挙げたのか?
それは……シリウスに恋してるからだ。いつの間にか、私はシリウスに恋してたらしい…行動の合間に見える優しさに惹かれたからだと思う。例えば、私が気付かないときには必ず挨拶してくれたし、具合悪いときに挨拶すると心配してくれるし…友達でもない私をいろいろと気にかけてくれた。だから次第に惹かれて、恋になっていったんだと思う。
「よくできましたね、感心しました。もういいので、座っても結構ですよ。」
先生に言われた通りに椅子に腰掛ける。ピースサインができなかったのは残念だったが、の顔には笑みが残っていた。点数がもらえた喜びよりもシリウスがピースサインをして笑ってくれた喜びの方が遥かに大きかったは、あんな笑みがいつも見れるのならいつも指名されたっていいのにな、と頭の隅で考えていたからだった。
――――シリウスを少しでも長く見たい。
その気持ちが高ぶり、シリウスと同じ講義を受けるときは、私はいつも斜め右上に彼が見える席に座るようになっていた。視野の中に彼がずっといるってことだから、則ちは、ずっとシリウスの仕草もろもろ見ているようなものだ。そう、彼はいつもほおづえついて講義を受けている。だから、癖が移ってしまったんだと思う。
「では、講義終わります。」
先生がそう言った途端に、生徒はがやがやと騒ぎ始めた。も次の講義へ向かうため、手早く机上の道具をしまう。ちらっとシリウスの方を見たが、親友と楽しそうに話しながら出ていく姿が見られた。ああいう風に私も楽しく話したいなと思いながらも、次の講義へと急いで支度する。
――――彼と同じ癖を持っていることが非常に嬉しいと感じる私は馬鹿だろうか?
唯一の共通点だけでも、シリウスと繋がってるって実感できるんだから。ああ…友達でもいいから、今の関係から進展したい。どうしたら、シリウスと仲良くなれるのだろうか。
今日も、はシリウスと同じようにほおづえついて、講義を受けている。
ほおづえついて
(「なーにピースしてんだよ!」「別にいいだろ。」「全く素直じゃないね。」「どうせひねくれ者だよ。」「「好きなら積極的に話せばいいだけなのに。」」「………っ、うるせー!」講義後の廊下で、顔を真っ赤にする少年をからかう二人の少年が見られたとか。)
お題配布元:365Themes
作品提出:H*P DREAM FESTIVAL
素敵な企画に参加できてよかったです。ありがとうございました!