「ノット」

突然声をかけられ、振り返ってみると、
僕にとって、良く言えば悪友、悪く言えば悩みの種、が立っていた。

「なにか?」

あまり他人と馴れ合う事が好きではない僕は、彼女いわく

「反応が冷たいっ」

らしく、彼女は時々こうやって一方的に話し掛けてきては文句(本人いわく指導)をつけてくる。

勿論それだけが用件で話し掛けてくるほど暇ではないのだろう。
"指導"の後には大体
「授業終了後に必要の部屋ね」
などとこれもまた一方的な約束を2・3週間に1回、取り付けて去っていく。

一方的な約束なのだから応じなくても良い筈だが、一度無視してみた後

「セオドール・ノットは女の子との約束を平気ですっぽかすひどいような男だ」

という噂がスリザリンのみならずホグワーツ中で流れた事があるため(先生方まで知っていたというのだから驚きだ)気が進まない。

だが、僕は不思議と彼女、の事が嫌いではなかった。



「お、来たねー」
いつものようにへらり、と笑って僕に手を振る。
「自分から呼び出しておいて」
と軽く溜め息をつくと、
「あ、幸せ逃げるよー」
とにやつく。

幸せが逃げる、と警告しながらもにやつくなよ、
と思いながらもまるで僕の為に置いてあったかのようにそこに存在する椅子に腰掛け、例の如く目の前に用意されている紅茶を飲む。
向かいでもいつも通り紅茶を飲む。

「で?」

と、最低限の言葉で問い掛ける。
勿論僕とは単純にティータイムを楽しむためだけにここにいるわけじゃない。








「ミスターノット?」

あの頃はまだの声にも遠慮の響きというものがあった。
「なにか?」
と返した僕に彼女はへらり、と笑って言った。

「冷たい反応ね」

まさかほぼ初対面でそんな言葉を投げ掛けられるとは思ってもいなかった僕は、ただ呆然として、気がつけば彼女のペースに巻き込まれてしまっていた。

連れていかれた人気のない中庭で、彼女は告げた。

「私、ミスターマルフォイが好きなの」

だからどうした、
と思った。確かに僕とミスターマルフォイことドラコ・マルフォイとは幼なじみと言える関係だ。しかし、彼女が僕にそう告白する必要性が感じられない。
彼女は僕が協力するとでも考えているのだろうか。

彼女の言葉より先に、協力する気はない事を告げると彼女はまたへらり、と笑って

「それでいいわよ」

と言った。
その言葉に少し驚いた。だが、その後の発言に僕は更に驚かされる。

「ただ、話を聞いてほしいだけ」








そして、今に至る。


の"話"はマルフォイについて、だったり、
やれパーキンソンがくっつき過ぎているだの、
やれポッターが失礼過ぎるだのという愚痴だったりする。

そして大体最後は普通に友人同士が話すような他愛もない話題で締め括られる。

それに僕は、紅茶を飲みながら、時々相槌を打ったり、返事をしたりする。
普段は

「反応が冷たい」

と怒るだが、自分の話で手一杯なのか、それともこの反応で満足しているのか、僕にそれを知る術はないが、この時ばかりは、文句のひとつも口に出さない。

そして、ひとしきり話した後は決まって、へらり、と笑って

「どうもありがとうございました、ミスターノット」

丁寧に(本人はそのつもりらしい)礼を言う。

それが僕らの"いつもの楽しいティータイム"だ。


今だに何故の要求を受け入れたのかは、自分自身よくわからない。

それどころかなぜか僕は時々、最初に告げた言葉とは裏腹ににアドバイスや情報を与えてやっている。
そういう時、はへらり、とではなく、にっこりと笑う。

僕はその笑い方にどこか違和感を感じ、目を逸らす。




違和感と共に感じる痛みに気付いてはいけない。








気付けば君がいなくなってしまう気がして