時間はいつもいつの間にか流れてゆくモノで

                               ほかの事を気に取られている間にあっという間に過ぎ去ってゆく



                               僕がそのことに改めて気づいたのは その日の前日

                               7年という歳月に 僕が気づいたのはもうあまりにも遅かった

                               もう次の日には僕は去らなくてはいけなくて



                               それは君にとっても同じことで



                               君がどんなに涙を流しても遅かった

                               君はここから遠い遠い世界(くに)へ帰らなくてはいけなくて



                               僕らがどんなに嫌がっても時間は進む

                               僕らがどんなに思っても帰りの汽車の音は響く







                               僕らはそこで夢の約束をした











き っ と ま た あ い に く る か ら                               



そ の と き は                               



ね え リ ー マ ス 、                               



約束 、 だ か ら ね ・・・                               














                               「明日で、僕らも卒業かあ」





                               人気(ひとけ)のない部屋。

                               騒がしい寮を出て、落ち着くための"必要の部屋"。





                               そこで現れたソファの背にもたれながら、ジェームズが呟く様に言った。





                               「はえーよな、今思うと」



                               シリウスが暖炉にあたりながら頷いた。





                               「だよねー。 あー犬、覚えてる? 一回喧嘩したやつ」

                               「ああ覚えてる覚えてる、暴れまくって怒られて一緒に罰受けて仲戻ったんだよな」

                               「若かったよねー、僕ら」

                               「だよなー」



                               「僕のお菓子を最後までつまみ食いした思い出とか?」



                               「そうそうリーマスはいつもレアな菓子もってるからついつい・・・  っ、え?」







                               シリウスは恐る恐る振り返る。



                               そこには暖炉の炎を浴びて少し赤く照らされたリーマスの姿が。





                               「ふぅん、最後の最後まで君が犯人だった、と」





                               にっこりと笑ってつまみぐいのため開封された菓子袋をテーブルに置いていた。







                               「あ・・・ いや・・ うん、・・・・・・・ すいませんでした」





                               「べっつにぃー?最後だし怒ってないよぉー?べつに? もう最後、そう 最期 だし・・・」



                               「えっいま 何か意味違う最後って言わなかっ・・・」







                               「じゃっじゃーん!」







                               シリウスの台詞は大きく扉を開け登場したにかき消された。



                               三人がドアのほうに目をやると、大きな袋を持ったリリーとが立っていた。





                               「なにその袋?」





                               そう聞かれて、リリーはちょっと眉をひそめる。





                               「私はあんまり賛成しなかったんだけど・・・最後って言ってもハメはずしたら駄目だと思ったんだけど」

                               「ってリリー言ってるけど、何だかんだで用意手伝ってくれたんだよ」



                               「何の?」



                               はにんまり笑った。









                               「飲み会、とかどうよ?」











時間はいつもいつの間にか流れてゆくモノで                               

ほかの事を気に取られている間にあっという間に過ぎ去ってゆく                               



僕がそのことに改めて気づいたのは その日の前日                               

7年という歳月に 僕が気づいたのはもうあまりにも遅かった                               














                               「あははリリー寝ちゃったよー」





                               肩にもたれてきたリリーを見ては笑った。



                               「あー ずるーい」



                               それを見て、ジェームズが完全に回りきっていない舌で言った。



                               「お前しゃべれてねーぞ・・・」

                               「しゃべれてますー あははははー」

                               「もうジェームズも駄目だねー」



                               酔っ払いに絡まれるシリウスを見ながらリーマスが言った。





                               「ったく、しょーがねえなあ」







                               よいしょ、とシリウスはリリーを担ぐ。

                               それを見てジェームズが回らない舌でこら、といっている間にジェームズも担ぐ。





                               「どうするのシリウス?」

                               「布団の中押し込んでくる」

                               「ジェームズはわかるけど、リリーは? 女子寮だよ」

                               「俺だったら開けてくれるだろ」

                               「うわー、こいつ一回痛い目見ればいいのにー」

                               「つーわけで、行って来る」

                               「いってらっしゃーい」

                               「お疲れさまー」









                               部屋を出ながら、シリウスはため息まじりに口元をすこし斜めに上げた。



                               「あいつらも一緒に居たいだろうしな」



                               そう呟いて、俺っていいやつ、と再び呟いて担ぎながら寮へと向かった。











もう次の日には僕は去らなくてはいけなくて                               



それは君にとっても同じことで                               












                               「卒業、かー。 早いよね」

                               「まだ卒業したくないなー」

                               「それ言ったら皆そうだよ」

                               「だよねぇ」





                               こつん、とグラスをテーブルに置いてはソファに腰を下ろした。





                               「やだなぁ」

                               「何回言うの、それ?」

                               「・・・離れるの」





                               「  ・・・・それは、ここから?」







                               はソファに寝転びながら言った。







                               「ここからも、皆からも、リーマスからも」







                               リーマスは寝転んだの頭の隣に腰掛ける。

                               はちょっと笑ってリーマスを見上げ、頭を傾けて顔を隠した。





                               「・・・帰りたくないよ、ここにいたい」

                               「帰るって約束で、ここに入学したんでしょ?」

                               「 やだ、な・・・。 何でそんな約束したんだろ」



                               リーマスもちょっと笑った。



                               なぜ笑ったのかは分からなかったけれど。





                               「こっちで私は生きたい」





                               妙にはっきりと、が呟いた。





                               「リリー達の結婚式を見たい、シリウスとまたチェスしたい、こっちで居たい  ・・・リーマスと一緒に居たい」











君がどんなに涙を流しても遅かった                               

君はここから遠い遠い世界(くに)へ帰らなくてはいけなくて                               












                               リーマスは黙ったまま、小さく震えるの頭を撫でた。





                               「また、会えるから」



                               「 ・・・絶対?」

                               「うん、絶対」

                               「本当に、?」

                               「僕はずっとここに居るから。 でもが無理なら僕が行くから」





                               黒い髪の中から、もう一粒しずくが頬を伝うと同時にすこし笑った口元が覗いた。











僕らがどんなに嫌がっても時間は進む                               

僕らがどんなに思っても帰りの汽車の音は響く                               












                               「リリー達の結婚式、どんなだったか手紙送ってね」

                               「普通の、でね」

                               「うん。 待ってる」



                               「じゃあ、元気でね 

                               「うん、リーマスも元気でね」







                               甲高い空港への電車の音が響く。



                               電車に足を踏み入れて、はもう一度手を振った。







                               「きっとまた会いに来るから その時は ねえリーマス、 約束、だからね・・・」











僕らはそこで夢の約束をした                               














                               「なあリーマス、お前と卒業以来会ってるのか?」



                               久しぶりにシリウスと食事をしていると、ふいにリーマスは尋ねられた。



                               リーマスは少し止まって、あいまいに笑って肩をすくめた。



                               「手紙とかはやってたんだけど、最近はしてないかな」

                               「かなって・・・それでいいのか?」

                               「んー」

                               「会いに行こうと思わないのか? ・・・ああでもの家厳しいって言ってたな・・・」

                               「そうだねえ」



                               シリウスは持つフォークとナイフを皿の上に置いて、少し黙って 言った。







                               「会う約束とかしてないのか?」









                               まちがいない、とシリウスは思った。



                               完全に、いま。

                               動きが止まった。







                               リーマスはそれを感づかれたとわかったのか、諦めた様に首を振った。





                               「した、っていったらしてる。してない、っていったらしてないよ」





                               「・・・なんだよそれ」

                               「そんなのなんだよ」







                               そういったきり、リーマスはその話をしなかった。

                               シリウスは少し腑に落ちなかったが、聞くのをやめた。













き っ と ま た あ い に く る か ら                               



そ の と き は                               



ね え リ ー マ ス 、                               



約束 、 だ か ら ね ・・・                               


















                               僕らがしたのは夢の約束



                               叶ったら約束

                               叶わないならただの夢



                               流れる月日に身を任せて

                               小さな夢の約束を まだ自分は信じてる



                               薄い希望を持ちながらその脆さに嘆く夢の約束

                               儚さに悲しみながらもその光を求める夢の約束



                               君はもう、忘れているだろうか

                               君も今も、信じているだろうか



                               きっと、忘れることのない・・・









リ ー マ ス 、                               



げ ん き そ う で よ か っ た ・・・ 。                               



・・・ や だ 、 泣 い ち ゃ っ た の ?                               














                               まるでドラマの様に荷物が手を滑って地面に落ちる。

                               下を向いて拾う事も忘れたしまった脳は、ただ前を見ていた。



                               見覚えのある髪が、夜風に揺れていた。











僕らがしたのは夢の約束                               



叶ったら約束                               

叶わないならただの夢                               












                               「・・・、  ?」





                               口の中が乾いて、上手く声にならない。

                               でもその声に気づいて、彼女は振り返る。



                               僕を見て、君は少し止まった。



                               そして変わらない声で笑って答えた。





                               「リーマス、  」







                               気がついたら荷物は忘れていた。



                               ただ見ているものを脳に伝えるだけでいっぱいな僕に近づいてきた君は、また笑った。





                               「そんなに人の顔見つめて、なぁに? ・・・私老けた?」

                               「え、・・・? どうして、」

                               「どうしてって、私約束したでしょう?」





                               忘れちゃったの?というように彼女は笑いながら首をかしげた。











流れる月日に身を任せて                               

小さな夢の約束を まだ自分は信じてる                               












                               「な、 ぇ、僕何も聞いてない よ」



                               途切れ途切れに話す僕を見て、君は呆れたように笑う。



                               「だって言ってないもん」

                               「な、・・・そんな急に」

                               「びっくりしたでしょ?」

                               「そんなレベルじゃないよ・・・」





                               自然と顔が緩む。

                               それと同時に、僕は腕を動かしていた。











薄い希望を持ちながらその脆さに嘆く夢の約束                               

儚さに悲しみながらもその光を求める夢の約束                               












                               「リーマスにこうされるの、ひさしぶり」



                               くぐもった声で、の嬉しそうな声がする。

                               それを聞いてすこし、力を強める。



                               「卒業以来、だからね」

                               「そうだね・・・ 身長伸びたよね?」

                               「そう? 多分君が縮んだんじゃないかな」

                               「・・・リーマスの馬鹿」

                               「あ、ごめん 嘘」



                               細い腕が、背中に回されたのが服の下で感じた。











君はもう、忘れているだろうか                               

君も今も、信じているだろうか                               












                               「待っててくれて、ありがとう 」



                               「来てくれて、ありがとう」



                               回された腕に、力が少し入る。





                               「もうリーマスは忘れてるかなって思ってた」

                               「僕もまだ覚えてるかなって思ってたよ」

                               「犬とか夫婦さんたちは元気?」

                               「元気元気、が帰ってきたって知ったらすごく喜ぶよ。 ついさっきまでシリウスと居たし」

                               「そうなの?」

                               「おいしーいご飯食べてたんだよ」





                               ええずるい、とは体を離した。

                               そして僕を見て、口元を緩めた。











きっと、忘れることのない・・・                               















                               「リーマス、元気そうで良かった・・・。 ・・・やだ、泣いちゃったの?」













                               目潤んでる、と笑う彼女の頬に、手を当てる。





                               「よく言うよ」





                               電灯に煌く目を見て、僕はなぜか笑った。





                  
君だって泣いていたくせに


                               
(涙が出てるのに何で君は笑うんだい?
                               
ああでも僕も泣きそうだけど笑えるから、
                                            
多分一緒なんだろうね )



















END







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リーマス 切甘を目指してみたけど、どうなのかなこれ。
視点が最後のほうリーマス視点です。




【H*P DREAM FESTIVAL】に投稿!



白亜