“優等生”という仮面を盾に、様々なことを思い通りにはこぶことが出来た。先生方の信頼を得ること、生徒たちを魅了すること。―――先生の中には例外があれども、生徒の方は全員に自分の存在を認めさせることが出来る――――――――と思っていた。 自分でいうのもなんだけど、顔は整っているし、成績は優秀だし、(表面上ではあるが)優しい。特に女性には。 なのに、何年をかけても、彼女だけは手中に落ちてこない。 初めはただ単純に興味だったんだ。僕に気にかけられて落ちない女はいなかったから。 そして、その感情はいつのまにか、僕自信でも気づかないうちに、種類を変えていた。 そう、一般に「恋」と言われている感情に。 「なぁ、明日のホグズミード一緒に行かねぇ?」 一応スリザリン生ではあるが、マグルと差別もしないし、いつもにこやかな彼女は他寮からもかなり人気があった。でもやはりスリザリン生はスリザリン生。あまり良い眼で見られないため、影ながら、の人気である。 ―――そして、今もデートの断りで彼女は忙しい。 リドルは図書室の一角で頬杖を付き、一点をジッと見つめていた。 そこには、整った顔立ちであるが、けして目立つ行動を取らない、同じ寮所属の・の姿がある。 そいて、は先ほどからレイブンクローの男子生徒に言い寄られて、本当に迷惑していた。 「あの、先輩、明日はちょっと・・・」 「それ、前回も言ってただろ?いいじゃん、デートって言っても、ただ一緒に歩くだけなんだしさ。なんか奢ってやるよ」 そう言って、テーブルの上で本を押える役割をしていたの手の上に自分の手を重ねる男子生徒。さりげなく、もう一方の手はの腰を抱き寄せ、密着していた。 ・・・・・・・ムカツク。 僕がそんなことしても全然焦らないのに、今は顔には出てないけどかなり焦っている。 そして、君のことだから、僕が近くにいることも知っているんだろう? なんで助けを求めないの? ホント、ムカツク。 リドルがどんどん苛ついている間にも、と男子生徒の距離は縮まっていた。 「先輩、やめっ・・やめてください!」 次第にも大きく抵抗してみせるが、やはり男女の差。は男子生徒に両腕をがっちりと押さえられてしまった。 「たすけて・・・・!」 か細いの声に、リドルはプツンという音を何処かで聞いた。 彼女の助けが、自分だけに発せられたものではないと分かっている。 でも――――なぜか、僕を待っている気がしたんだ。 「先輩」 リドルはレイブンクロー生の隣まで行くと、さりげなく彼の肩に手を置いた。ギュッと力をいれて深く爪を食い込ませる。 服の上からだったが、ちゃんと痛みを感じてくれたらしく、彼は掴んでいたの両腕をパッと離した。 が小さく安堵のため息を吐くのが聞える。怖かったのか、身体が僅かに振るえていた。 リドルは、そのを脅かす原因となるものを今すぐにでも排除するべく、男子生徒に微笑んだ。 「先輩、は明日のホグズミード、僕と行く約束をしているんです」 さっさと立ち去れコノヤロー。 そんな気持ちをこめてジッと目を合わせると、彼はビクッと振るえ、足早に図書室を出て行った。 もういない男子生徒に、の身体の振るえがとまった。 そして、ついとリドルを見上げる。その目に映るは―――安堵の光。 ――――僕を見て安心している。ヤバイくらいに可愛くて、愛おしい。もう、末期症状だ。 の瞳に僕意外の男が映るのが嫌だ。下手したら女も。 この瞳に映るのは、僕だけでいい。 この感情は恋だと思っていたけれど。 そんなに優しく、可愛らしいものではない、と思う。 数秒ボーッとリドルを見上げていただが、コロンと羽ペンが手を離れた拍子にハッと我を取り戻した。 もっとあの時間が続いてたらよかったのに。 そう思いながら、リドルはの手から離れ、テーブルの下へと落ちて行った羽ペンを拾う。 「ありがとう、リドルくん」 さっきのこととどちらに対してのお礼か分からない。が、たぶん、そのどちらもなのだろう。 「どういたしまして。―――ねぇ、さっきのことだけどさ」 「うん?」 「本当に、僕と一緒にホグズミードに行かないかい?」 その途端、の身体が明らかに強張った。緊張しているようでもある。 たっぷり一拍おいて、はゆっくりと口を開いた。 「・・・なんで、私、なの?」 「え?」 リドルが聞き返すと、はバッと口を押えた。さきほど言った言葉は無意識だったようである。 「ほ、ほら、リドルくんならさ、美女が選り取り見取りじゃん!―――あー、私はさ、別の人と行くから、無理に誘ってくれなくてもいいよ?私が一人淋しく行きそうだったから、誘ってくれた・・・んでしょ?うん。だから、えっと・・・ま、またね!」 早口で言い終えると、リドルが言う間も与えずに、はバッと荷物をまとめ、図書室から飛び出した。 そのときにチラッと見えたの顔は林檎色。 ―――――これって脈ありって見てもいいんだろうか・・・? うーん、と考えてから、やはり明日の朝にでももう一回誘ってみよう。と心に決めたのだった。
(ロマンティックな恋じゃなく、どろどろな愛)
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